価格交渉だけでは貿易採算を守れない
中国・香港との貿易で、商品単価については細かく交渉しながら、支払条件を「T/T 30 days」「30% deposit、70% before shipment」といった数語だけで決める企業は少なくない。しかし国際取引では、誰がいつ資金を先に負担するのかによって実質的な取引リスクが大きく変わる。
中国工場への30%前払い、70%船積み前払いは買い手から見れば製造資金を先に供給する取引である。工場の信用力、検査体制、返金条件を確認しなければ、納期遅延や品質不良が起きても支払済み資金を回収できないことがある。一方、船積み後30日や60日払いは売り手側が信用供与することになり、買い手の資金繰り悪化や倒産リスクを負う。
L/Cは商品の品質を保証する制度ではない
高額取引では信用状(L/C)が選択肢になる。国際商業会議所のUCP600は、信用状取引がその基礎となる売買契約とは独立した取引であることを定める。また第5条は、銀行が取り扱うのは書類であり、書類が関係する商品、サービス、履行そのものではないという原則を明示している。
したがって、L/Cを使えば品質不良の問題まで銀行が解決してくれるわけではない。銀行は原則として提示された書類が信用状条件に合致しているかを審査する。要求書類の条件設定が不適切であれば、商品を正しく出荷しても書類不一致によって決済が遅れる可能性がある。
インボイスと契約書の不一致を放置しない
実務では売買契約書、Purchase Order、Commercial Invoice、Packing List、運送書類の会社名、数量、金額、通貨、Incotermsを照合する必要がある。中国工場が製造し香港会社が請求する場合には、最初からその商流を契約に反映させる。
特に支払口座を変更する場合、インボイスだけを書き換えて対応するのは危険である。契約相手と銀行口座名義が異なるなら、なぜ第三者へ支払うのかを明確にし、必要に応じて三者間合意を作成する。
口座変更はメールだけで承認しない
海外送金ではBECへの備えも欠かせない。振込先変更のメールを受信した場合は、メールへの返信だけで確認を完了させず、従来から把握している電話番号や別の通信手段で本人確認を行う。一定金額以上の送金には二重承認を設けることも有効だ。
契約書には支払通貨、支払期限、前払金の返還条件、銀行手数料の負担、遅延時の処理、口座変更手順を記載する。インボイスは単なる経理伝票ではなく、売買契約と国際送金を結び付ける証拠書類である。営業、物流、経理が同じ案件番号で情報を共有する仕組みが、代金回収事故を減らす。